訴 状
岡山地方裁判所 御中
原告訴訟代理人
弁護士 位 田 浩
当事者の表示 後記当事者目録のとおり
請求の趣旨・原因 後述のとおり
損害賠償請求事件
証拠方法
本日付証拠説明書のとおり
添付資料
1 甲号証写し 各1通
1 現在事項全部証明書 1通
1 履歴事項全部証明書 2通
1 委任状 1通
当事者目録
原告 原渕 茂浩
原告訴訟代理人
弁護士 位田 浩
被告 株式会社山陽新聞社
代表者代表取締役 佐々木 勝美
被告 山陽新聞販売岡山東販売株式会社
代表者代表取締役 久野 蕃
被告 山陽新聞販売岡山西販売株式会社
代表者代表取締役 三宅 登久
請求の原因
(はじめに)
本件は、押し紙裁判である。
「押し紙」とは、大資本である新聞社が圧倒的劣位にある新聞販売店に対し、実際には購読者がいない新聞を押し付けて、これに相当する新聞原価を支払わせることをいう。このような押し紙は、新聞販売店に不利益を与えるものとして古くから独占禁止法で禁止され、違法とされていたにもかかわらず、今なお隠然として行われている。
本件は、山陽新聞を発行する新聞社とその子会社たる販売会社がその圧倒的な優位性を利用して新聞販売店に押し付けてきた押し紙による損害について、その回復を求めるものである。
第1 当事者
1 被告ら
(1) 被告株式会社山陽新聞社(以下、被告山陽新聞社という)は、主として岡山県、広島県東部、香川県において、日刊紙である「山陽新聞」を発行する株式会社である。
山陽新聞は、1879年に創刊された「山陽新報」から始まり、何度かの名称変更ののち1948年に現在の名称となった。現在の発行部数は朝刊が47万8000部、夕刊が約7万4000部であり、岡山県内におけるシェアは約63%を占める。
(2)被告山陽新聞岡山東販売株式会社(以下、被告岡山東販売という)及び被告山陽新聞岡山西販売株式会社(以下、被告岡山西販売という)は、ともに被告山陽新聞社の子会社であり、主に被告山陽新聞社の発行する山陽新聞を販売する会社である。
被告岡山東販売はもと「山陽新聞販売株式会社」(以下、山陽新聞販売という)という商号であったところ、2006年12月1日に山陽新聞販売株式会社から被告岡山西販売を分割するとともに、商号を被告岡山東販売へと変更した。被告岡山東販売は岡山市の東エリアと被告山陽新聞社の津山支社をカバーし、被告岡山西販売は岡山市の西エリアと被告山陽新聞社の福山支社をカバーしている。
2 原告
原告は、2000年6月から2007年2月までの間、岡山市奥田1丁目4番21号において「岡輝販売センター」との屋号で新聞販売店を営み、被告らの指定する販売区域において、山陽新聞の販売を業としてきた。
第2 山陽新聞販売と原告との新聞販売委託契約
1 原告は、2006年6月に山陽新聞販売との間で新聞販売委託契約を締結した。
同契約書には、次のような定めがあった(甲1)。
(1)取扱品目
山陽新聞販売の販売する新聞(同社の指定する刊行物・前売券等を含む)
(2)読者管理
原告は山陽新聞販売の指示する帳票書類を作成、常備し、同社が必要とするとき
はそれを提示しなければならない。
(3)原価・手数料
新聞の売価・原価・手数料は別途定める。出版物その他の原価・手数料は山陽新
聞販売がその都度決める。
(4)代金額の算定
毎月5日数をもって取引部数とし、山陽新聞販売はその取引部数で代金額を算定する。原告は、その代金額を毎月末日までに同社に完納しなければならない。
(5)折込広告
原告は山陽新聞販売から指示された新聞折込広告の折込配布に責任をもつ。同社は毎月5日の朝刊定数を基に折込手数料を算定し、原則として翌月5日に原告に支払う。
(6)特約事項
原告が配達その他で購読者から著しく不信・不満をもたれるに至ったとき又は市場の変化等によって管理上問題が生じたとき、山陽新聞販売は区域の変更、本契約の解除等必要な措置を講ずることができる。
2 原告は、2000年6月から「岡輝販売センター」という屋号で山陽新聞販売の指定する区域において山陽新聞を配達するとともに、読者管理や折込広告の配布等をしてきた。
3 山陽新聞の購読代金及び新聞原価
原告は、購読者から新聞代金(以下、購読代金という)を収受する一方、山陽新聞販売に対して新聞仕入代金(以下、新聞原価という)を支払うことになる。
山陽新聞の1ヶ月あたりの1部の購読代金及び新聞原価は、被告山陽新聞社の決定した次の各金額である。
購読代金 朝・夕セット:3925円 朝刊のみ:3007円
新聞原価 朝・夕セット:2992円 朝刊のみ:2325円
なお、購読者の多くは口座振替の方法により直接山陽新聞販売に対して購読代金を支払っており、その口座振替分は、原告に対する新聞原価から控除されることになっている(甲4)
4 折込広告
原告は、山陽新聞販売から指示された折込広告を新聞に折り込み、購読者に配布する。折込広告手数料は、山陽新聞が毎月5日の朝刊定数をもとに手数料を算定し、翌月5日に原告に支払うものとされ、原告に対する新聞原価から控除される。
第3 山陽新聞販売の原告に対する送り部数の決定方法
1 山陽新聞販売は毎日、原告の岡輝販売センターに対し山陽新聞を供給し、原告は購読者にこれを配達する。
以下では、山陽新聞販売から原告に供給される新聞の部数を「送り部数」といい、原告が購読者に販売する新聞の部数を「購読部数」または「実売部数」という。
2 山陽新聞販売は、毎年、複数回にわたり、月々の部数を「目標数」と称して数ヶ月以上先まで一方的に決定するのである。(甲2の1〜9)。
原告は、この決定に従わざるをえず、実際の購読部数にかかわらず、山陽新聞販売の決めた「目標数」の部数とまったく同じか、それに1部付加した部数の「仕訳日報表」を毎月作成し、山陽新聞販売に提出させられるのである。(甲3の1〜21)
こうして、山陽新聞販売は、自らの決定した部数を下らない送り部数を原告の岡輝販売センターに送付し、送り部数に相当する新聞原価を原告に支払わせてきた。
第4 取引の経過(押し紙の発生)
1 原告が岡輝販売センターの営業を始めた2000年6月当時、山陽新聞販売が原告に割り当てた販売区域における山陽新聞の購読部数(朝・夕セットと朝刊のみとの合計部数である)は約1800部ぐらいであった。これに対し、山陽新聞販売が原告に供給していた送り部数についても、実際の購読部数に2%程度の予備紙を加えた部数(以下、注文部数という。なお、後述第5の1を参照されたい)に近いものであった。
2 ところが、近年のパソコン通信の発達等IT社会の進展による新聞離れのため、原告の営業努力にもかかわらず、山陽新聞の購読者は次第に減少し、岡輝販売センターの購読部数も減少してきた。
3 山陽新聞販売は、担当者が毎月原告から実売部数について聴取しており、実売部数が減少していることを知悉していた。被告山陽新聞社においても、同被告の子会社である株式会社山陽計算センターにおいて、販売会社から提供される実売部数(発証数)を管理しており、同計算センターを通じて、このような事実を掌握していた。
4 したがって、本来であれば、購読部数(実売部数)の減少にしたがって、送り部数を減らすのが経済的に合理的である。さもなければ、売れなかった大量の新聞が販売店に次々と残り、山のようなゴミになっていく、新聞はその発行日のうちに売れなければ全く商品価値がないからである。
5 しかし、山陽新聞販売は、岡輝販売センターにおける実売部数を無視し、上記第3のとおり、月々の送り部数を数ヶ月以上先まで一方的に決定し、当該部数を原告の岡輝販売センターに送付してきた。そして、山陽新聞販売は、購読者のいない分を含む送り部数のすべてに相当する新聞原価を原告に負担させた。
その結果、原告は購読代金を回収できない新聞原価の支払いを余儀なくされ、多額の不利益をこうむるようになった。
6 原告の岡輝販売センターにおける2003年2月の購読部数(実売部数)は、朝・夕セットが237部、朝刊が1470部であり、合計で1707部にすぎなかった。これに対し、山陽新聞販売の原告に対する同月の送り部数は、朝・夕セット285部、朝刊1572部であり、合計で1867部にも上った。購読部数を160部も超える新聞が送られてきていたのである。
その後も、実売部数は徐々に減少していったが、送り部数はほとんど減らされることはなく、反対に、国民体育大会や新社屋完成、新聞大会といった行事が開かれるごとに増紙が強制されてきた。
7 2006年12月の山陽新聞販売の会社分割に伴い、原告の岡輝販売センターは、被告岡山西販売のもとに所属することになったが、実情はまったく変わらなかった。
8 2007年2月には、実売部数が188部・朝刊1336部の合計1524部であるにもかかわらず、被告岡山西販売からの送り部数はセット230部、朝刊1363部の合計1875部にのぼり、販売されない新聞があわせて351部に達した。
原告は、被告らによる押し紙にたえることができず、2007年3月、被告岡山西販売との間で新聞販売委託契約を解除した。
9 原告の岡輝販売センターにおける2003年2月から2007年2月までの購読部数(実売部数)と送り部数は、別紙一覧表記載のとおりである。
第5 押し紙の違法性
1 新聞業における法的規制一押し紙の禁止
(1) 新聞販売店は新聞社の圧倒的な支配下にある。
新聞販売店は、店主と数人の配達員で小規模に運営されており、新聞社と比較すると、その経済力や資本力において雲泥の違いがある。新聞販売店が扱う商品は新聞社から供給される新聞であり、新聞販売店は新聞社から新聞が供給されなければ事業が成り立たない。新聞を販売する区域についても新聞社により指定され、その区域外で販売することもできない。
このように、新聞社は新聞販売店に対し、取引関係上圧倒的に優位的な地位にあるのである。そして、新聞社間の激しい販売競争を反映して、新聞社は新聞販売店に対し、本件のような不当な不利益を強いることになる(甲5、甲6)。
(2)そこで、従来から、新聞社による新聞販売店に対する押し紙は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)により、不公正な取引方法にあたるとして規制されてきた(甲5、6)。
ア 独占禁止法2条9項5号は「自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引する」行為で「公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの」を「不公正な取引方法」と定義し、同法19条は「不公正な取引方法」を禁止している。
イ 公正取引委員会は、上記条項に基づいて「新聞業における特定の不公正な取引方法」として次の行為を指定し、これを禁止した(昭和39年10月9日公正取引委員会告示14号)。
「二 新聞の発行を業とする者が、新聞の販売を業とする者に対し、その注文部数をこえて、新聞を供給すること」
これは、新聞社が販売店の注文部数をこえて一方的に新聞を送りつけること(押し紙)を禁止するものである。ここにいう「注文部数」とは、その販売店の現実の販売部数に一定の予備紙を加えたものである。(公取委解釈基準昭和39年6月5日)。公正取引委員会は、注文部数を「新聞業においては、新聞販売店が実際に販売している部数に正常な商慣習に照らして適当と認められる予備紙を加えた部数」と定義している(平成9年(勧)第26号。甲9、甲10)。
また、「注文部数をこえて新聞を供給すること」には、販売店の減紙の申し込に応じない場合も含まれると解されてきた。
(3) 公正取引委員会は、1999年7月21日、上記告示を次のとおり改正した(公正取引委員会告示9号)(甲7、甲8)。
「3 発行業者が、販売業者に対し、正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益を与えること。
一 販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む)。
二 販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。」
従前の告示では「新聞の発行を業とする者が、新聞の販売を業とする者に対し、
その注文部数を超えて、新聞を供給すること」としか定めていなかった「押し紙」
に関する規定が上記のとおり改正されたのである。
まず、第一号では、販売店の減紙の申込みに応じない場合も含まれることが明
示された。次に、第二号が追加されたのは、新聞発行業者と販売業者との取引上
の優劣関係から、販売業者が新聞社へ発注する部数には新聞社の圧力が反映する
ことがあることを考慮されたことによる。さらに、柱書きの「正当かつ合理的な
理由」とは、予備紙を指すと解されている。(甲7)。
(4) 押し紙の違法性
以上のとおり、独占禁止法は、新聞社が新聞販売店に対して注文部数を超えて
新聞を供給すること(押し紙)により販売業者に不利益を与えることについて、優位
的地位を利用した「不公正な取引方法」にあたるとして、これを禁止している。
したがって、押し紙が独占禁止法に違反する違法行為であることは明らかである。
(5) 新聞販売会社の場合
以上の理は、新聞社がその子会社である新聞販売会社によって新聞販売店に対し
て行う押し紙の場合であっても、なんら変わるところはない。新聞販売店にとって
みれば、巨大な新聞社の子会社である新聞販売会社は、新聞社と等しく、取引上の圧倒的に優位な立場にあり、独占禁止法及び上記が予定する新聞発行業者と販売業者との関係と実質的に同じものだからである。
したがって、被告山陽新聞社の子会社である山陽新聞販売や被告岡山西販売が原告に対して押し紙を行うことは、独占禁止法に接触する違法行為にあたる。
2 本件の押し紙の違法性
(1) 上記第4で述べたとおり、山陽新聞販売及び被告岡山西販売は原告に対して遅
くとも2003年2月から押し紙を行ってきた。独占禁止法で押し紙が禁止されていることなど知らなかった原告は、送られてくる新聞の新聞原価を山陽新聞販売や被告岡山西販売に支払わなければ強制的に新聞販売委託契約が解除(いわゆる強制改廃)されるおそれがあるため、これに従わざるをえなかった。
(2) 山陽新聞販売及び被告岡山西販売の押し紙の方法
上記第3でも触れたが、ここでは被告らによる押し紙の方法をより詳しく説明しよう。
山陽新聞販売は、まず、毎月の送り部数を決定する前に、数ヶ月分先までの「目標数の決定」を行い、原告に通告する(甲2の1〜9)。
原告は、その決定は従って、毎月の月末に、「仕訳日報表」に翌月1日付けの部数を記載して山陽新聞販売へファックスする。しかし、その際に、山陽新聞販売の決定した目標部数を下回った場合には、たとえ1部であっても、次の当月5日付けの仕訳日報表の際には目標部数にするように強制するのである。担当者が店舗までやってきて、5日付けの仕訳日報表の部数が目標数になるように強いるため、原告はこれを拒絶することができない。こうして、仕訳日報表は毎月1日付けのものと5日付けのものとを作成させられるが、5日付けの部数が送り部数。すなわち山陽新聞販売と原告との間の「取引部数」となる(甲3の1〜21)。
山陽新聞販売が決定した部数に対し、原告は「できない」「減らして欲しい」と申し出たこともたびたびあったが、担当者は「本社(被告山陽新聞社)の指示があるから変更できない」「本社の意向があるから、販売会社では決められない」等と言って強要してきた。
(3) 山陽新聞販売及び被告岡山西販売が実売部数を知っていたこと。
原告の岡輝販売センターにおける購読者については、株式会社山陽計算センターが管理しており、毎月、読者一覧表として作成されている。山陽新聞販売及び被告岡山西販売は同計算センターから提供される読者一覧表を有しており、原告は毎月山陽新聞販売らから読者一覧表をもらうのである。したがって、山陽新聞販売及び被告岡山西販売が原告の岡輝販売センターにおける正確な実売部数を知っていいたことは明らかである。
また、山陽新聞販売らは原告に命じて、購読代金を収受できない押し紙の一部についてあたかも購読代金を得たかのように仮想するため、セット17部、朝刊119部について、原告あての架空の領収書を発行させていた。
さらに、山陽新聞販売も担当者は、原告が申告する実売部数を確かめるために、配達員が新聞配達に出た後に、配達されずに残っている新聞部数(押し紙)がどれくらいあるかを確認しに来ることもあった。
(4)以上のとおり、山陽新聞販売及び被告岡山西販売は、自らが決定した目標部数
が原告の注文部数(実売部数+予備紙)をはるかに超えていることを知りながら、あらかじめこれを原告に通知し、この部数を下回らない部数を原告に発注させて新聞を送付し続け、実際の購読者がいない新聞原価を原告に支払わせていたのである。
このような被告らの行為が独占禁止法の禁止する違法行為であることは明白である。
第6 被告らの責任原因一債務不履行又は不法行為
1 被告岡山東販売及び被告岡山西販売の債務不履行責任又は不法行為責任
山陽新聞販売及び被告岡山西販売は、長年にわたり原告に対して違法な押し紙
を続けてきたものであり、以下に述べるとおり、債務不履行又は不法行為に基づ
き、原告がこうむった損害を賠償する責任がある。
(1) 一般に、新聞販売店の店主は小資本の個人商店が多い一方で、新聞社やその子
会社の新聞販売会社は販売店に対し経営を指導し、新聞社又は新聞販売会社の指定する区域において新聞社らの指示する新聞を販売・配達させている。また、新聞社 らは、購読者な拡大のために、他のライバル紙の販売店の動向をチェックし、新聞販売店に対して拡張員の受け入れを強いたり、無代紙の配達や景品の配布等を支持したりしている。これに対し、取引上圧倒的劣位にある新聞販売店は、新聞社らから強制改廃を受けるおそれがあることから、常に新聞社または新聞販売会社からの指示や送付される部数を受け容れざるを得ない状況にある。その結果、新聞販売店は、購読者のいない押し紙の新聞原価を新聞社に対して負担しなくてはならないという不利益と損害をこうむることになる。
そのような新聞販売店の不利益及び損賠の発生を防止するために独占禁止法が「新聞業における特定の不公正な取引方法」として「押し紙」を禁止していることからすれば、山陽新聞販売及び被告岡山西販売は、新聞販売委託契約に付随していることからすれば、山陽新聞販売及び被告岡山西販売は、新聞販売委託契約に付随して、原告に対し、押し紙による不利益が生じないようにするため、その注文部数(実売部数に2%程度の予備紙を加えた部数)を超えて新聞を供給してはならない義務があるというべきである。
(2) これを本件についてみると、原告の岡輝販売センターにおいて、2003年2月には実売部数が1707部となり、同年6月からは1700部を割り込んでいたことについて、山陽新聞販売は、原告からの申告ないし読者一覧表からこれを認識していたのであるから、送り部数をただちに実際の購読部数に2%程度の予備紙を加えた部数にすべき義務があった。しかしながら、山陽新聞販売及び被告岡山西販売は、送り部数を減少させるどころか増やすような対応を行うなどして、押し紙を続けたのである。
以上のような被告らの行為は上記義務に違反したものといわざるをえず、その結果、原告は違法な「押し紙」の新聞原価の支払いを強いられ、後記第8のような損害をこうむったものである。したがって、被告らは原告のこうむった損害を賠償する責任がある。
(3) 被告山陽新聞社は、2006年12月1日会社分割により山陽新聞販売から被告岡山西販売を新設するとともに、山陽新聞販売の商号を被告岡山東販売に変更した。
原告は、会社分割における債権者保護のための催告を受けておらず、被告岡山東販売と被告岡山西販売はともに、山陽新聞販売の原告に対する債務を弁済する責任を負う。
2 被告山陽新聞社の責任一不法行為責任
被告山陽新聞社は、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売の親会社であり、両被告を通じて、商品である山陽新聞の販売を行っている。被告山陽新聞社の販売局は、各販売会社を実質的に支配し、その販売政策として実売部数を大幅に超える送り部数を原告ら販売店に送りつけていた。被告山陽新聞社は、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売を使って原告に対して違法な押し紙を行っていたのである。
したがって、被告山陽新聞社は、不法行為責任に基づき、原告のこうむった損害を賠償する責任がある。
第7 不当利得返還請求について一予備的主張
山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売による押し紙は、独占禁止法に違反する違法なものであって、原告の損失によって同被告らが利益をむさぼった。原告と山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売との間の押し紙部分の取引は、公序良俗に反し、無効である。山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売は、法律上の根拠なく「押し紙」に対応する新聞原価相当額の利得を得る一方で、原告は同額の損失をこうむったということができる。
よって、後記第8のとおり原告のこうむった損失について、山陽新聞販売(被告岡山東販売)及び被告岡山西販売は不当に得た利得分を原告に返還しなければならない。
第8 原告の損失または損失
1 押し紙の部数
2003年2月から2007年2月までの間に原告が押し付けられた押し紙の部数は、別紙一覧表の「送り部数」から「注文部数」を控除した数である。
2 押し紙部数に相当する損害(損失)
原告の損害(損失)は、上記押し紙部数に1部当たりの新聞原価を乗じた金額になるところ、別紙一覧表の「損害額」欄記載の金額となる。
第9 結論
よって、原告は被告らに対して請求の趣旨記載の支払いを求めて、本訴に及んだ。
以上